金利5%の債券と聞くと、投資家ならついつい食指が動くところですよね。
債券なら、発行体がつぶれなければ元本が戻ってくる商品ですから、その債券で金利5%などと聞くと、低金利が続く昨今の日本において、気にならないわけがありません。
でもそれ、ちょっと待ってください。
それ、「仕組債」っていう名前の商品じゃありませんか?
今回は、仕組債をじっさいに販売していた者が、仕組債とはどのように作られ、どのようなリスクがあり、どのように販売会社が儲かる仕組みになっているのかについてご紹介します。
仕組債とは?
通常の債券に、オプションを組込むことによって作成されているのが仕組債です。
仕組債は「EB債」と呼ばれたりもします。
同じようのものとして、「仕組預金」というものもあります。
仕組債はオプションの条件によってどんな条件のものでも作ることができます。
一般的には以下のような条件が付されていることが多いです。
期間:1年
金利:5%
対象株式:ABC電気
ノックイン:当初価格×65%
上の条件を簡単言うと、「金利5%の債券ですが、ABC電気の株価が65%以下になったらABC電気の株価に合わせて償還します」ということになります。
たとえば1年が経過するまでにABC電気の株価が55%になったら、100万円の債券は55万円(別途利息5万円)になります。
もちろんABC電気の株価が65%を下回らなければ全額が償還され、利息と合わせて105万円が還ってくることになります。
仕組債のからくり
上記のような仕組債を作るには、「プットオプションの売り」と「プットオプションの買い」を行えば良いです。
プットオプションの仕組
プットオプションとは、株式を特定の値段で売る権利のことです。
「プットオプションの売り」の場合、権利を売却しているので、売却した分のお金(プレミアムと言います)がもらえます。
「売る権利」を売るというと分かりにくいので、例を示します。
【当初条件】
ABC電気の当初株価:10,000円
ABC電気の株を10,000円で売る権利を売る
【ABC電気の株価が6,000円になった場合】
ABC電気の株を10,000円で売る権利を売っているので、10,000円で買取する。
⇒▲4,000円の損
【ABC電気の株価が11,000円になった場合】
ABC電気の株を10,000円で売る権利を売っているので、買取は発生しない。
※権利を行使しても、得にならないので、誰も権利行使しない※
⇒損失無。(プレミアム分得をする)
以上をグラフに示すと以下のようになります。
ちなみに、上記のプットオプションを購入した場合の損益は以下のようになります。
購入した側の損益と、売却した側の損益は真逆になるわけですね。
仕組債の具体的な組成方法
プットオプションについて理解いただけたら、次は具体的な仕組債の組成方法について解説していきましょう。
仕組債を作る方法は以下のようになります。
①投資家からお金を集める
②権利行使価格10,000円のプットオプションを購入し、
権利行使価格10,000円のプットオプションを売却し、
権利行使価格6,500円のプットオプションを売却する。
③-1【権利行使価格以上で株価が推移した場合】
特に取引は発生しないので終了。
③-2【権利行使価格以下に株価がなった場合】
権利行使価格10,000円のプットオプションの権利は投資家から販売社側に(実質上)所有権が移転する。(株価が6,500円以下になった場合は株価の時価割合で債券を償還してよいから)
権利行使価格6,500円のプットオプションが権利行使され、損失が発生した場合は、権利行使価格10,000円のプットオプションの権利行使をして損失をカバー。
以上をグラフに表すと以下のようになります。
【投資家側の損益】
【販売社側の損益】
緑色の線がそれぞれの損益を表しています。
投資家側は株価がノックインすると大きな損失を被るのに対し、販売社側の損益は常に一定になります。
この販売社側の損益が販売社側の利益となっているわけですが、その源泉は何かというと、権利行使価格6,500円のプットオプションの販売による受取プレミアムが収益の源泉となっているわけです。
そこから投資家に金利として投資家に手渡す分を差し引いた残りが販売社側の利益となるわけですね。
下に表も添付しておきます。
なぜ仕組債は買ってはいけないのか?
2023年3月現在、金融庁の指導で個人向けに仕組債を販売する金融機関はかなり減りました。
これは大変良い傾向だと思います。
仕組債は基本的に購入してはいけない商品です。
なぜ購入してはいけないかというと、以下の2点があげられます。
- 債券という名前だが、損失がどこまで膨らむか分からない
- 販売社側がどれだけ手数料を取っているかが不透明
損失がどこまで膨らむか分からない
さきほどの図で見た通り、投資家側から見ると、株価が下がれば損失が一方的に広がっていく商品です。
にもかかわらず、債券という名称で販売しているため、一見するとリスクが小さいように勘違いしてしまう可能性があります。
実質的には株と変わらないにもかかわらず、債券だと思って購入してしまう個人投資家の方は多かったのではないかと思います。
販売社側がどれだけ手数料を取っているかが不透明
オプションの価格がいくらなのかを、みなさんはご存じでしょうか。
私は証券アナリストで20年以上株式投資をしていますが、そんな私でもあまり見聞きすることはありません。
それくらい、オプションは一般的な個人投資家には縁遠い存在です。
そのため、販売社側と個人投資家側との間で情報の非対称が存在し、個人投資家が不利な価格で仕組債を購入してしまう可能性があるのです。
表面的な金利は5%でも、実はオプションのプレミアムは20%相当だったという可能性も十分にあります。(この場合、販売会社側が15%もの利益を得ていることになる)
さきほど見てきた通り、厳密には手数料ではないので、商品販売情報には手数料は記載されていません。
「無手数料」の商品ではありますが、実体的は法外な利益を得ている可能性もあり、十分な注意が必要な商品なのです。